ファンタジック、レトロ、ゴシックが好きな奴の読み物置き場
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拝啓、桜の木の下より
 

あれから何年が経ったでしょうか。
月日とは早いものですね、私と貴方が出会った日から、もう何十年も過ぎていました。
貴方はどんどんと大人になられて、立派な将校になられましたね。
私も、貴方を誇りに思っています。
ええ、私ごときが、貴方を誇りに思うなど、出過ぎた事かもしれません。
それでも、どうか許してください。私が貴方を思う事を。
私と貴方はもう、決して交わる事のない世界で生きている。
だから許してください。私の心の中に、少しでも貴方を残す事を。

お父様はもう、お亡くなりになられましたね。
哀しみの中でそっと手を差し伸べてくださったあのお嬢さん。
あの方と恋仲なのでしょうか?
とてもいい方だと思います、どうかその恋をお捨てにならないでくださいね。
きっと貴方に見合う、いい伴侶になって下さる事でしょうから。
そうなれば、私も安心です。安心して、貴方を想う事が出来る。

邪魔だと思うでしょう、私の存在を。
恐怖を感じるでしょう、私からの手紙を。

それでも、私はこうして書き続ける事しか出来ないのです。

貴方と私を結ぶものは、私からの手紙だけしかないのですから。






知っていますか?桜の木の下で、いつも貴方を見守っています。




彼処
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無題
 
男と少女が、薄暗い路地のつきあたりに立っていた。少女は淡い桃色のワンピースを身に纏い、同じ色のリボンで髪を結っている。どこかの令嬢だろうか、到底こんな場所にはいないだろう美しい少女だが、反して顔つきは冷静だった。対して男の方は、目立たなかった。否、暗闇に紛れていなくなり、何時しか存在すら忘れ去られてしまうのではないだろうかと思うほど、闇というものを纏っていた。男の方は顔の半分ほどが髪の毛やらコートやらで見えないせいかもしれない。だが例えるなら花のような、可憐な少女とは到底接するところがないだろうと思う。
少女は男に近付くと、男ではなく、男の足元に視線を移した。男の方はそれに構わず、ただ立ち尽くしている。少女はふふっと声を出して笑うと、

素敵なお人形ですね、

と一言声をかけた。完璧なまでの微笑を携え、男にもう一歩と迫る。だが自分を拒ませないその勝気な態度にも、男は動こうとしない。少女は暫くの間男の返答を待っていたが、やがて諦めたのか溜め息をひとつついて後ろに退いた。男はそれを見るなり、

これを人形だと思うなら、貴女様は随分と箱入り娘でいらっしゃる。

と口元だけの笑みを零して呟いた。少女は突然の侮辱に当然いきり立ったが、ふとした瞬間目に入った男の足元のそれに目を見開き、なにかを叫びながら路地の向こうの明るみへと消えていった。男はそれを、ただただ蔑むように、嘲るように見つめていた。
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無題
 
男と女が、薄暗い路地のつきあたりに立っていた。女は細く長いキセルを持ち、淡々と煙草を吹かしている。服は赤く、夜道でも目立つくらいに露出が多い。どこかの娼婦なのではないかと思う。対して男の方は、目立たなかった。否、暗闇に紛れていなくなり、何時しか存在すら忘れ去られてしまうのではないだろうかと思うほど、闇というものを纏っていた。男の方は顔の半分ほどが髪の毛やらコートやらで見えないせいかもしれない。だが毒々しいほど強烈な雰囲気をもった女とは、到底接するところがないだろうと思う。
女はキセルを口から離すと、ほう、と息を吐いた。瞬間唇から白い煙が放たれる。路地には、女のそれしか物音がしなかった。男も、ただそこに在るだけといった感じで、黙って立っている。

アンタ、誰なんだい。

ふいに女が呟いた。顔も声も、男の方に向けられてはいないが、路地には男と女、二人しかいない。男は声をかけられたのに気づくと、ゆっくりと女を一見し、そして

そちらさんこそ。

と、笑いながら返した。女はそれを聞くと、どこか呆れたような、それでいて苛立ったような表情をし、チッとひとつ舌打ちをした。それからキセルをくわえ、路地のレンガで造られた壁に寄りかかりじっと男を見つめている。女の瞳は、狩りをしようと獲物を見定めている虎のように鋭い。だが男は気にせずに、先程と同じようにただ立っているだけである。
やがて女は男を見つめるのをやめた。溜め息のように煙を吐き出すと、一歩踏み出した。踏み出して、路地の更に薄暗い方へと消えていく。男はそれを、ただただ憐れむような、慈しむような瞳で見送っていた。
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彼が皇帝と崇められた由縁

 

例えば貴方のその御髪に
触れられるのならばどんなにか素敵な事でしょう
それを夢見る女どもは何人も居るというのに、
貴方はそれを裏切ってばかり


昔々、世にも美しい皇子様がおりました
漆黒の御髪が美しく、その瞳はなにもかもを射抜くほど
とても綺麗なものでした
その笑みは、その国の者達を陶酔させてしまうほど
とても艶やかなものでした

けれどもその皇子様に近付くものは
皆、何故だか死んでしまうのです
何時しかその皇子様の周りには誰もおらず
皇子様はひとりぼっちになってしまうのでした



貴方はいつもひとりぼっちで
誰とも口をきこうとしない
その唇はいつしか渇きはて自ら裂けて
真っ赤な血がたれてしまうんじゃないかと思うほど


例えば貴方に想い人がいて
その人を愛し続け、そのまま死んでしまうのだったら
せめて、誰にでもいい、
カーテンの隙間から貴方を眺めているわたしにでもいい


その名を明かして   そして天へと召されては下さらないのでしょうか


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とある機械に捧げる歌
 
わたしは機械です
皆様に歌声を届ける仕事をしています
わたしは沢山います
皆様はわたしのことを「       」と呼びます

今日わたしは、ある方のところへお仕事に行きます
どんなお歌を唄わせて頂けるのか、
わたしの他にも仲間はいるのだろうか、
箱の中に入っている間、
ずっとずっと考えていました


わたしの主人は、わたしを笑顔で迎えてくださいました
それそれは嬉しそうに、主人はわたしを受け取ってくださいました


それからずっと、わたしは主人のために唄いました
主人が歌を作ってくださり、それをわたしが唄う
永遠に枯れる事のないこの声を、
わたしはとても大切なものに感じました


今でも忘れません
この歌声は、いつまでも主人を待ち続けています

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