ファンタジック、レトロ、ゴシックが好きな奴の読み物置き場
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- - -
無題
 
男と女が、薄暗い路地のつきあたりに立っていた。女は細く長いキセルを持ち、淡々と煙草を吹かしている。服は赤く、夜道でも目立つくらいに露出が多い。どこかの娼婦なのではないかと思う。対して男の方は、目立たなかった。否、暗闇に紛れていなくなり、何時しか存在すら忘れ去られてしまうのではないだろうかと思うほど、闇というものを纏っていた。男の方は顔の半分ほどが髪の毛やらコートやらで見えないせいかもしれない。だが毒々しいほど強烈な雰囲気をもった女とは、到底接するところがないだろうと思う。
女はキセルを口から離すと、ほう、と息を吐いた。瞬間唇から白い煙が放たれる。路地には、女のそれしか物音がしなかった。男も、ただそこに在るだけといった感じで、黙って立っている。

アンタ、誰なんだい。

ふいに女が呟いた。顔も声も、男の方に向けられてはいないが、路地には男と女、二人しかいない。男は声をかけられたのに気づくと、ゆっくりと女を一見し、そして

そちらさんこそ。

と、笑いながら返した。女はそれを聞くと、どこか呆れたような、それでいて苛立ったような表情をし、チッとひとつ舌打ちをした。それからキセルをくわえ、路地のレンガで造られた壁に寄りかかりじっと男を見つめている。女の瞳は、狩りをしようと獲物を見定めている虎のように鋭い。だが男は気にせずに、先程と同じようにただ立っているだけである。
やがて女は男を見つめるのをやめた。溜め息のように煙を吐き出すと、一歩踏み出した。踏み出して、路地の更に薄暗い方へと消えていく。男はそれを、ただただ憐れむような、慈しむような瞳で見送っていた。
読物 comments(0) trackbacks(0)
スポンサーサイト
- - -
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://gate-k.jugem.jp/trackback/3
Material by 歪曲実験室。
Template by malo pismo
Log in | RSS1.0 | Atom0.3 |
(C) 2018 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.